2018年10月30日
高呂 賢治(Kenji Koro)
シニアマネージングコンサルタント
最近LPWAと言う言葉がよく出てきますね。
Low Power Wide Areaの略ですが、LPWAN(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれているLPWAについて解説します。
LPWAは1台のゲートウェイ(もしくは基地局)で半径数km以上の広域無線通信が可能なことを特徴とした技術であり、IoTデバイス等を電池無交換で数年間駆動可能なためIoT通信などに期待されています。3GPPの「LTE版LPWA」であるNB-IoTもLPWAに含まれることがありますが、よく知られているので、ここでは割愛します。
LPWAは2010年頃に登場しましたが、注目されるようになったのは2015年あたりからです。現状各種方式が乱立しており、それぞれが特徴を強調しています。組織としてはフォーラムの会員によるサポートで運営する方式と、企業が運営する方式に分けられます。また、通信システムだけを提供する場合から、ターンキー(システム全体の開発・設置・運用)システムで提供する場合まで、様々なビジネスモデルがあります。
以下に主な運営方式について記載します。
Accellus、Aclala、Dart、Injune(旧 OnRamp)、nWave(Weightless-P)、SENSUS、Sigfox、Silver Link、Telensa、WAVIoT
使用周波数はDash7等が2.4GHz帯域であることを除けば、サブGHz帯域を使用しているものが多いのが特徴です。搬送周波数の低い方が伝送距離を伸ばすことができるためだと思います。また通信方式もそれぞれ特徴があり、国内に関係が深い主な方式についてその特徴を比較した表を以下に示します。
表 LPWA方式の比較(TTC TR-1064より抜粋)
LoRa | Sigfox | WAVIoT | Nwave Weightless-P | Ingenu RPMA | Flexnet | |
---|---|---|---|---|---|---|
周波数帯 | サブGHz帯 | サブGHz帯 | サブGHz帯 | サブGHz帯 | 2.4GHz | 280MHz帯 |
変調方式 | CSS | BPSK | DBPSK | DBPSK | RPMA | FSK |
MAC | 独自(LoRaWAN) | 独自 | 独自 | 独自 | 独自 | 独自 |
暗号化対応 | 〇(AES-128) | 〇(独自) | 〇(XTEA-256) | ○(AES-128) | ○(AES-128) | 不明 |
リンクバジェット[*1] | 154dBm | 151dBm | 166dBm | 177dBm | 163dBm | 不明 |
通信速度(bps) | 300~50k[*2] | 100[*3] | 10~100k[*1] | 200~100k[*4] | 下り600k 上り100k |
10k |
通信距離 | 都市部数km 見通し15km |
都市部5km 郊外15km |
都市部10km 郊外50km |
都市部2km 郊外5km [*5] |
郊外5km [*1] | 最大20km |
注:引用元等は以下の通りです。
主なものとしてLoRa、SigFox、WAVIoT、Nwave(Weightless-P)、Ingenu(旧 OnRamp)、Flexnetについて概要を以下に記載します。
LoRaはオープンスタンダードとして提案され、LoRaチップと通信モジュールを開発製造しているICメーカーSemtechとIBMが2015年に設立したLoRa Allianceが推進しており、IBMやZTE、仏Orangeなどがスポンサー企業として名を連ねています。また、MACレイヤーによるデータ送受信までを含めた仕様LoRaWANは多くの国々で通信キャリアが中心となって全国展開中であり、LoRa Allianceの認証を受けて活動しています。セルラー通信やSigfox同様に、基地局を設置して提供する事業者も現れており、NTTネオメイトと福岡市各所が中心となって実施したFukuoka City LoRaWANなど、各所で実証実験が行われました。
2009年創業の仏国ベンチャー企業であるSigfox社が運営しており、欧州では2017年現在で約1,000万デバイスが稼働中で、2018年中に60カ国へ展開予定です。Sigfox通信サービスは1国1社に限定、Sigfoxネットワークオペレータ(SNO)として独占的に1国を任せています。日本では京セラコミュニケーションシステム(KCCS)がSigfox対応のIoT向け低価格通信サービスの提供を2017年2月から開始することを発表しネットワークサービスを提供しています。
WAVIoTは、マシン・ツー・マシン(M2M)テレメトリーおよびIoTアプリケーション向けの全2重LPWAN テクノロジーで、独自のOSI層をすべてカバーするNarrowband Fidelity(NB-Fi)プロトコルをベースにしており、2011年設立の米国WAVIoT社が運営管理しています。
英国Weightless-SIG(Special Interest Group)社によるアライアンスが結成されており、オープン化、テクノロジーの認証とライセンスを実施しています。設立当初は、3つの方式が存在しましたが、現在は2015年12月に規格化されたオープン標準のWeightless-Pとなっています。2018年、スマートシティ、工場(FA)をターゲットに製品化されました。
2008年1月設立の非上場のM2M(Machine-to-Machine)通信ネットワーク関連企業が運営、2015年9月にOn-Ramp Wirelessより名称変更し、現在の社名Ingenuとなっています。米国アリゾナ州やテキサス州ダラスでの公共IoTネットワークなどの導入事例があり、国内では長谷工エアネシスが2013年にスマートメータ(GE製)の通信手段として導入しました。
2003年に米国ノースキャロライナで創業した水道を中心としたスマートメータ企業が運営を開始し、2016年に米国の水ソリューション企業Xylemに買収されました。米Sensus(センサス)社が2000年代から展開している広域無線通信システムで、スター型広域無線のみを通信方式として用い、すべての無線端末が基地局とダイレクトに双方向通信を行うことができます。米国や英国を中心に、水道、電気、ガスのスマートメータなど、導入世帯は2,000万を超えているとしており、国内ではKDDIが水道スマートメータのフィールドトライヤルを実施しました。国内では280MHzの免許帯域を使用し、神戸市水道局のスマートメータリングや山間部の工業用水利用で実験がおこなわれました。
以上、各方式の概要を説明しましたが、LPWAはIoT拡大における課題の電源(消費電力)、コスト、エリア(距離)を解消して、家庭内などの近距離の無線通信から街レベルにまでエリアを拡大しようとしています。最近では先述の既存方式に自社方式を加味して改良し先発組に対抗するケースが現れてきました。また、既存のキャリアや新しいサービスオペレータがLPWAを使用した安価なサービスとして年数百円程度のサービスも現れてきています。
様々なものがインターネットにつながるIoTは今後、世界で数百億個以上のデバイスに増加し、農林水産業・各種検針・電力制御・防災・産業用途など物と物の通信としてLPWAは発展を遂げると考えられますが、国内ではまだ実証実験的なものが多く、キラーアプリ的な存在が期待されます。
OKIコンサルティングソリューションズ設立当初より主要メンバーとして活躍、近年の対外業務は、ホームネットワーク、IoT関連で省庁、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)のIoTエリアネットワーク専門委員会、網管理専門委員会、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)マルチメディア委員会、高度通信システム相互接続推進会議(HATS)、スマートIoT推進フォーラムを中心にリーダー的存在として活動中